風になびく麦の穂のように

社会人一年生の岡野穂摘は、この梅雨、すっかり滅入っていた。学校の勉強ができても、社会で通用するのとは、また全然違うのだと痛感し、しかも初めての一人暮らしで、家に帰って話せる相手もおらず、軽いウツに入っていた
2014年03月20日

社長のスパイ?

田川祥子は社長のスパイ?

飲み会が盛り上がって来た頃。田川祥子が、穂摘の方に近づいてきた。
「あなたが、朝田君の高校の後輩さんね。よろしく」
同じ会社なのに、祥子は、カバンから名刺を取り出すと、穂摘に渡した。そのカバンはゴージャスな金色なのになんだか素朴で、しかもどこかで見たことのある雰囲気がして、穂摘は首をかしげた。祥子の名刺には堂々と社長秘書の文字がある。が、その下に、『社長の前のワンクッションに』というフレーズがあり、穂摘は吹き出す。祥子は、ニッコリ笑う。
「そういうこと。社長スパイなら、社員スパイでもあるんだから、なんでも相談してね」
すっかり朝田の存在を忘れ、華やかで美しい田川祥子の言動ばかりを見つめていた飲み会になってしまった。最後になって、朝田に、ごめん、あんまり高校時代の記憶がないんだ、みたいなことを言われて、横で大爆笑している瀬川にムッとしたくらいだった。

ただ、田川祥子が持っていたカバンが気になった。家に帰ってしばらくしてお気に入りのカーテンを閉めながら、穂摘は、「あ!」と声を上げた。祥子のカバンは、七枝が持っていたカバンと同じカーテン生地だ。カバンらしからぬ感覚が間違いない。後日、穂摘は、七枝にあった。

七枝は、穂摘の高校の同級生で、現在、デザイナーをしている。彼女も朝田直道のファンだったので、穂摘の報告を聞いて、「そんなもんか~」と溜息をもらす。七枝は以前と同じ、イエローとブルーのカーテン生地を使って自分で作ったカバンを持っていた。このカバンがきっかけで、穂摘のワンルームの新居カーテンも入手できたのだ。
「別に調べるつもりはなかったんやけど、穂摘ちゃんのメールの詳細が気になって、サンプルの本持ってきてん」

タグ :カーテン

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