社会人一年生の岡野穂摘は、この梅雨、すっかり滅入っていた。学校の勉強ができても、社会で通用するのとは、また全然違うのだと痛感し、しかも初めての一人暮らしで、家に帰って話せる相手もおらず、軽いウツに入っていた
2014年03月15日

社会人一年生

社会人一年生

社会人一年生の岡野穂摘は、この梅雨、すっかり滅入っていた。学校の勉強ができても、社会で通用するのとは、また全然違うのだと痛感し、しかも初めての一人暮らしで、家に帰って話せる相手もおらず、軽いウツに入っていた。

そんな穂摘を気遣って、同期の八木はるみが、彼女の部署の飲み会に誘ってくれた。穂摘がいるのは神戸でかなり大きな商社で、沢山の部署がある。英文科を卒業した穂摘は輸入業務の仕事をしていたが、経済学部だったはるみは営業部にいる。

その話を聞きつけ、穂摘の直接の先輩である瀬川裕(ゆう)が、ニヤニヤする。
「今夜は、営業部と飲み会らしいな、岡野さん」
穂摘は驚いて瀬川を見つめる。
「なんで知ってはるんですか?」
「いや、実は、俺も行くからさ」
「えええ~!?」
せっかく違う部署でウサが晴らせると思っていた穂摘は、失敬にも不満の声を上げてしまう。が、瀬川はそんなことにめげるタイプではなかった。
「ふふふ、他の部署で言えることがなぜここで言えぬ?」
「そんなわけじゃないですけど・・・あ~ぁ」
あからさまにがっかりする穂摘の様子を、しかし瀬川は全く気にしない。他の社員たちは、いつもの穂摘と瀬川のやり取りを何気に聞き流しながら笑っている。
「そんながっかりな君に、とっておきの情報を教えてやろうか?」
「いりません」
「なんでやねん」
「飲み会行けばわかるようなことでしょ?」
瀬川は再び不敵な笑みを浮かべる。
「いや、岡野さん、ナメてもらっては困る! これはすごいネタやで。あの、朝田直道が、参加するんや!」

その名前を聞いて、穂摘は、カーッと赤くなる。その様子を見て、さすがに皆が笑った。
「瀬川、そんなに驚かしたりなや」
上司の声に、穂摘は、我に返る。
「お、驚いてなんて、いません!あ、朝田先輩、ですよね、たちばな高の」
それは、穂摘の高校の先輩で、あこがれの人だった、ということは、周知の事実だった。というのも、新人歓迎会のとき、酔っぱらった穂摘は自己紹介でちらっと話してしまったからだ。だが、誰も、それ以降、朝田直道のことに関しては、教えてくれなかった。

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