風になびく麦の穂のように

社会人一年生の岡野穂摘は、この梅雨、すっかり滅入っていた。学校の勉強ができても、社会で通用するのとは、また全然違うのだと痛感し、しかも初めての一人暮らしで、家に帰って話せる相手もおらず、軽いウツに入っていた
2014年03月18日

憧れの先輩

憧れの先輩

不安な気持ちいっぱいで、瀬川と向かった営業部の飲み会。そこで穂摘は、あらぬ光景を目の当たりにする。久しぶりに見る朝田は、ますます男らしく、輝いて見えた。が、その隣りに、モデルかと思うような美女がいる。穂摘は、はるみをつかまえて言った。
「朝田さんって、はるみの上司?」
「上司っていうか、先輩。あんたと瀬川さんみたいな関係。今のところ、直接仕事の関わりはなし、あまりしゃべったことないけど」
ありえない、と穂摘は憤慨する。なぜ自分は瀬川で、はるみは朝田先輩なのだ。
そんな穂摘をみて、「案外元気そうやん」と笑うはるみ。そして、穂摘にささやいた。
「矛先は私ちゃうで。あの、田川祥子や」

田川祥子は、社長秘書を務めていて、どの部署の飲み会にも招かれるほど人気者らしい。ある意味、社長スパイでもあるのだが、こんなきれいなスパイなら、どこの部署でも大歓迎だった。はるみの情報では、直道と祥子は同じK大出身で、直道が1回生のとき祥子が4回生だったらしい。そんな二人がこの会社で再会して、今では、社長公認のカップルだというのだ。道理で、高校の憧れの先輩の話をしても、誰も食いついてくれなかったわけだ。はるみさえも、今日まで朝田が来ることを知らず、その事実を穂摘に教えてくれていなかった。
「ごめんな、穂摘、事前に朝田さんが来るとわかってたら、私も社内の事情説明できたし、あんたも心の準備もできたのに」
穂摘は、がっくりと肩を落とした。
「どっちにしても、なんで今まで何も教えてくれなかったのよー」
「だって、あんたがそんなにマジで凹むほど、引っ張ってるとは思わへんかったし・・・」
はるみの言いわけは、瀬川の口調と似ていた。誰も、まじめに取り合ってくれてはいなかったのだ。
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